序章:雪の降る夜に
ある冬の日の夜、温暖なコルグの街では珍しく、雪が降っていた。
寒さに慣れていない住民達はみな家の中に閉じこもり、街はいつになく静かだ。
孤児院に住む少女は、毛布にくるまり、窓からしんしんと降り積もる雪を眺めていた。生まれて初めて見る、人影もまったくない真っ白な街の姿は、少女をとても惹き付けた。満月のお陰もあってか、夜にも関わらず、街はとても明るかった。
「きれい…」
既に普段ならとっくに寝ている時間を過ぎていたが、この日ばかりは興奮して眠れなかった。起きているのがばれれば、シスターに怒られるかもしれない。
「もう少しだけ…」
そう思った瞬間、大きな地響きが響いた。
「なに…?」
少女が驚いて顔を上げると、まん丸だった月が徐々に欠けていき、やがて街は真っ暗になった。何が起こったのかわからず、じっと様子をうかがっていると、ふと街に明かりがもどった。
もう一度、空を見上げると、何もなかったかのように満月がたたずんでいた。
慣れない夜更かしでぼーっとしていたのだろうか。もう寝ようと、視線を下ろすと、孤児院の前に布きれが落ちているのが見えた。いや、布きれではない。
「人?」
子供だ。誰かが孤児院の前で寝ている。こんな寒い夜に。
少女は慌ててシスターの所へかけていった。