Changeling

2章:仕事を求めて

  「仕事が見つからない…」

 アーシルは机に突っ伏してため息をついた。

 孤児院を出て、傭兵となったものの、ろくに依頼がない。

 正確に言えば、依頼は出されるやいなやベテランの傭兵が受けてしまう。それもそのはずで、コルグの街ではアーシルとセアが先日までいた伝統ある孤児院から、毎年のように傭兵志望者が出ているのだ。

 

 孤児院出身の諸先輩方は、とうの昔に自分たちが依頼にありつけるようにするシステムを作り上げてしまったらしい。駆け出しのアーシルとセアは、ノウハウも人脈もないのだ。ベテランの傭兵達を押しのけて、実績ゼロの二人が依頼を勝ち取ることは到底無理なことであった。

 もちろん、当初アーシルとセアは、自分たちが知る孤児院の先輩を頼ることも考えていた。しかし、二人が考える以上にコルグの街では傭兵の供給が過剰なようだ。先輩たちも、何とか傭兵の仕事をこなしているのはほんの一握りで、残りの者は仕事を求めて街を出たか、諦めて狩人になったようだ。そんな中で、後輩を助けてる余裕のある者などいなかった。


 「アーシル、これからどうする…?」

 セアが机に頬をのせたまま、不安そうな顔でアーシルに問いかける。



 「やっぱり、街を離れて仕事を探すしかないかな」

 アーシルは椅子にもたれかかり、そう答えた。

 

 狩人として働く道もあるし、セアのような女の子には給仕として働く道もある。しかし、二人は傭兵になるべきだと考える。傭兵になることこそが、自分達を育てた孤児院の望む道だからだ。

 

 人々の中には、孤児院が運営のために、育てた子供を傭兵として送り出していることが非人道的だと騒ぐものもいる。しかし、そうした者たちが、孤児となった子供達に生きる術や手段を与えてくれるのかと問われれば、答えはノーである。

 

 何の後ろ盾もない孤児達が15歳まで生き抜くこと自体難しい。それに、孤児たちは孤児院で戦闘術を教えてもらっているからこそ、成人後に危険ながらも真っ当な仕事にありつくことができる。この世界で、土地も何ももたない孤児達が生き抜くには、領主や街が必要としている危険な仕事に対応するしかないのだ。

 

 一握りの見目麗しい少女などは、給仕のような安全な働き口がみつかるかもしれない。しかし、今の時代、ほとんどの人間が、自分と家族で家業をこなすことに精一杯で、出自の知れない孤児を雇う余裕のある者などほとんどいない。結局、大多数の孤児は、動物やモンスターあるいは無法者と戦うしか生きる方法はない。

 

 少なくとも、当事者であるアーシルとセアは、孤児院に恩を感じている。だからこそ、傭兵への道を進んで選んだ。

 

 孤児院の評価によれば、二人はこと戦闘においては、近年稀にみる優秀さだという。アーシルとセアは、そうした評価を受ける自分たちが活躍して、孤児院が有名になり運営が潤えば嬉しいと考えている。また、孤児院の実績が領主に評価されていけば、いずれ農地等が与えられ、戦闘が苦手な子供達に別の道を開くことができるかもしれない。

 

 

 「コルグの街を離れるのは名残り惜しいけど、仕方ないね」

 「うん...」

 「行く当ても何もないけど、どうしようか」

 「それなら…とりあえず北がいい…」

 

  

 こうして、アーシルとセアは共に育った街を離れる、北を目指し出発することにしたのだった。